「かきいれどき」とは、利益や収穫、売れ行きが最も良い時期を指す言葉です。特に日本では、年末に商売が活発になるため、この期間を指してよく使われます。
一般的に「かきいれどき」は「書き入れ時」と漢字で書かれますが、この表記が適切かどうかについて議論があります。本記事では、その表記の妥当性についても掘り下げています。
「かきいれどき」の語源と、現代での使い方を詳しく説明します。また、同意語や類語にどのようなものがあるのかも解説し、より深い理解を助けます。
「かきいれどき」の漢字表記について
「かきいれどき」の正確な漢字表記は、文脈や使用する場面によって異なる可能性がありますが、「書き入れる」という表記が一般的です。
ただし、ほかの漢字表記も知っておくことは、言葉の理解を深める上で有益です。
「かきいれどき」の由来と漢字表記
「かきいれどき」という言葉は、「かきいれる」という動詞から派生しています。
「かきいれる」には複数の漢字表記が存在しますが、最も一般的な表記は「掻き入れる」、「舁き入れる」、そして「書き入れる」です。
「掻き入れる」の意味・用例
「掻き入れる」は、指や棒状の物で掻くようにして物を中に入れる行為を意味します。この漢字は「掻く」と同じで、以下の例文で使われています。
- 火取に火をかきいれて – 出典:『紫式部日記』
- ふところにかきいれて、わが身のならんやうもしらず、臥さまほしきこと限りなし – 出典:『篁物語』
この表記が「かきいれどき」に用いられることもありますが、これは通俗語源であり、言語学的な根拠はありません。
「舁き入れる」の意味・用例
「舁き入れる」とは、二人以上で物を担ぎ入れる行為を指します。この表記も「かきいれる」の一形態として古くから用いられていますが、以下の例文があります。
- 程なくかごをかきいるればおさんはし迄出むかひ – 出典:『大経師昔歴』 近松門左衛門
- 我に御まかせあれと申うちに、乗物長持かき入ける – 出典:『西鶴諸国はなし(巻五)』 井原西鶴
しかし、「舁き入れる」は「かきいれどき」の意味と直接関連しないため、この表記も不適切です。
「書き入れ時」の意味とその正しい漢字表記
「かきいれどき」の正しい漢字表記は「書き入れ時」であり、その意味と用例からもこの表記が適切であることが理解できます。
この表記は、商売が繁忙期であることを示しており、元々の意味と現代の解釈がうまく結びついています。
「書き入れる」の意味・用途
元々「書き入れる」という言葉は、「文章の行間や余白に文字や言葉、文章を書き加える」という意味で使われていました。また、「記入する」「書き込む」という意味でも用いられています。以下は、過去の文献における「書き入れる」の用例です。
- 集(貫之集)に書き入れたる、ことはりなりかし – 出典:『大鏡 巻三』 右大臣師輔
- 荒き言葉を書き入れ、思ひの外にいりほがなるぼんご・かん音などを載せたらんは、作者の僻事なり – 出典:『風姿花伝 第六』 世阿弥
- ところぐに書入れのしてある古く手擦れた革表紙の本だ – 出典:『桜の実の熟する時』 島崎藤村
「書き入れる」の他の意味
中世から近世にかけて、「書き入れる」は借金の抵当物件としての家屋を証文に記す意味、抵当に入れる意味で用いられました。以下はその用例です。
- 質にかき入侯所帯、余人に談合せしめ、永代うり、かの借銭をすまし侯に付ては、是非にをよばず – 出典:『塵茶集』九五条
- 呉服屋の手代請け込み、主人の金を百両持て来て、衣棚の家書入たる証文とって、小判わたして立帰れば – 出典:『世間娘容気』巻4
現代の解釈と語源
現在、「書き入れ時」という表現は、「帳簿に記入することが多くなるほど商売が忙しい時」と解釈されています。この表現は、帳面に収益などを書き入れる行為が増えることから来ています。
この解釈に基づいた辞書の説明として、以下のものがあります。
- 帳簿の記入に忙しい時の意から – 出典:岩波国語辞典(第四版)
- つぎつぎに帳簿に記入する時期の意から – 出典:学研国語大辞典(第二版)
「かきいれどき」の語源と由来
「かきいれどき」の正しい語源と由来は、「書き入れ時」であると結論付けることができます。
この言葉は元々「書き加える・記入する」という意味であり、その後様々な形で進化し、現在の意味に至っています。
歴史的な辞典に見る「書き入れ」の意味
戦前に刊行された国語辞典では、「書き入れ」という項目に、現代の国語辞典とは異なる意味合いの記載が見られます。これらの辞典には「書き入れ」の意味として、次の三つの説明が一般的でした。
- 記入の意味
- 抵当の意味
- 期待や目標としての意味(例:「その日を書入にして待つ」)
「書き入れ」の具体的な語源解説
特に注目すべきは、期待や未来の事象を指す意味合いです。
例えば、「大言海」辞典では、「売行、利益の期待。(確定の事として帳簿に書入れおく意)」と解説されています。
この説明から、「書き入れる」という行為が希望や期待を形にすることを意味していたことが伺えます。
「書き入れ」の使用例とその進化
具体的な使用例として、小説「安愚楽鍋」では、「夜の内職を目当てにする」という文脈で使用され、また「新橋夜話」では、「折角の書き入れ日をふいにされた」と表現されており、「約束した日」や「あてにした日」という意味で使用されています。
語源の時系列的変遷
「かきいれどき」の語源を時系列で追うと、「書き加える・記入する」という基本的な行為から始まり、「目当ての時期・期待する時期」という意味合いを経て、「忙しい時期・儲かる時期」という現代の解釈に至ることが分かります。
「かきいれどき」の類義語と言い換え
「かきいれどき」は、特に忙しい時期や利益が大きく上がる時期を指す言葉です。
この言葉にはいくつかの類義語があり、場面に応じて使い分けることが可能です。
類義語の一覧
- 繁忙期 – 一般的に業務が非常に忙しくなる期間。
- 繁盛期 – 商売が繁盛する時期。
- 忙しい時期 – 仕事などで忙しさが増す時期。
- 儲け時 – 利益を多く得られるチャンスのある時期。
- 稼ぎ時 – 特に金銭的な利益を大きく得ることが期待される時期。
- 全盛期 – 何事も最も盛んである時期。
- 最盛期 – 活動が最も活発である時期。
- 働き盛り – 力のある時期に働くこと。
- 刈り入れ時 – 農作物が成熟し収穫する時期。
- 旬 – 物事が最も良い状態にある期間。
使い分けのポイント
これらの類義語は、忙しさや利益の多さなどのニュアンスによって異なります。「繁忙期」や「忙しい時期」は主に仕事の量を強調するのに対し、「儲け時」や「稼ぎ時」は利益の多さを強調します。適切な言葉を選ぶことで、表現の意図をより明確に伝えることができます。
「かきいれどき」という言葉は、単に「忙しい時期」や「利益が多い時期」を意味するだけでなく、それぞれの類義語によってさまざまなニュアンスを表現することが可能です。状況に応じて、これらの言葉を効果的に使い分けることが重要です。